小林秀雄の編集による「現代日本文学館」が文芸春秋より発刊されたのは1965年のことである。
書店から営業の方が我が家を訪問して、どうですか?と母に勧めた。
「小林秀雄の選なら、いいわよねお父さん」と母が父に聞いた。
「彼がどんな作品を選ぶのか興味があるね」と父が応えて、
こうして毎月、一冊ずつ小林秀雄が厳選した現在の日本文学が我が家に届くことになった。
私は当時は中学生であったが、両親の話を聞いて「小林秀雄というのは、権威があるなあ。凄い人だろうな」と思った。
大学に入って彼の処女評論とも言える「様々なる意匠」を読み、やはり凄いやつだったと悟った。
さて、その小林秀雄の選だが、彼も、その当時は老人なので、やたらと老人物の小説が選ばれており、
川端康成の「眠れる美女」など、とても中学生向けとは思えない作品を、私は読むことになった。
もちろん「伊豆の踊り子」「雪国」「山の音」も選ばれていたが、断然、「眠れる美女」の方がエロティックである。
小林は谷崎潤一郎をえらく評価していたらしく、谷崎は3巻もあった。
最初の配本は「瘋癲老人日記」であった。
これは、谷崎の最晩年の作品で、1960年頃に書かれたもの。
カタカナで歴史的仮名遣いで書かれた日記形態の小説である。
私は「瘋癲老人日記」という題名をえらく気に入ってしまった。
こんなものを読んでいる中学生は居ないだろう。
夏休みの読書感想文に取り上げようと思ったが、父に止められた。
それでは、「痴人の愛」ではどうか?
「それも、やめれ」とのことであった。
それから50年、私も老人のなったので、瘋癲老人日記を付けることにする。
今まで「悠々なる生活」というシリーズで日記のようなものを書いていたが
老人性金欠病であまり悠々ではなくなったのである。
スポンサーサイト